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キャンベラの飲み水事情について(下書き)

オーストラリアに来る時は飲み水で絶対困ると思ってたのに、そんなことが全くなく拍子抜けしまった。しかも街じゅうに無料の水飲み場があって、水道水は水質も良く、来てからずっとそのまま飲んでいるがお腹を下すことがない。

にもかかわらず、いま住んでいるキャンベラの年間降水量は瀬戸内海式気候の高松や中央高地式の長野よりも少ない。また、この地域は全体的に慢性的な渇水に見舞われていると聞く。なかでもキャンベラも含まれる広大なMurray-Darling盆地は2017年はじめから現在に至るまで旱魃が続いており、降水量の少なさと気温の高さにおいて歴史的な厳しさになりつつあるという(→参考1)。

今回は、どうして降水が少ないのに市内はこんなにも安全な水にアクセスしやすいのか調べてみた。

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街じゅう(+大学)にある水飲み場。水はひんやりとしてちょっと甘みがあっておいしい

まず、地域をオーストラリアにしてインターネットで、「Canberra tap water quality」と検索すると、”iconwater.com.au”というページが出てきた。

英語版WikipediaによるとIcon Water(以下Icon)はACT(首都特別地域)政府が所有する公営企業で、ACT地域内の上下水道を統括しているようだ。

この企業のホームページにアクセスすると上水道について年1回の水質報告をしていたので、早速読んでみた。今日(2019年8月26日)にアクセスした最新版が、2017ー18の水質報告だった。添付したリンク先の下の方に概要版pdf(→参考2)がある。

www.iconwater.com.au

リンク先によれば、水質評価は登記された研究機関による国レベルの合同委員会によって行われ、水質管理業務は

1:2011年制定のオーストラリア飲料水ガイドライン(以下ADWG)→国レベルと、

2:2007年制定の公衆衛生(飲料水)に関する行為準則(以下DWCoP)→ACT政府(州に準ずる)レベル

の両者に順していると記されている。

※ここで補足すると、行為準則”Codes of practice”とは英連邦独自の概念で、法令の下位に位置し法令に設けられた基準を達成するための具体的な行動指針や、リスクの特定および対処を司っている。見たところ労働衛生の向上に関するものが多いようだ。参考としてQueensland州政府による以下のページ(→参考3)を用いた。

続いて早速水質報告のpdf(以下資料)を見ていこう。

まずはじめの章では水源の貯水状況や上水の生産/消費量が記されている。

平均と比べた水量の変化率がいつと比べたものなのかがよくわからないけど、水源の貯水率が芳しくないことを言いたいようだ。1日あたりの上水生産量が73-258ML(メガ=100万リットル)とかなりの開きがあるのも気になるが、各所に上水の貯蔵施設があるので大丈夫だろう。

次に、キャンベラ地域の上水道の水源が記されている。

記事によればIconは取水堰や導水ポンプを用いて3本の川からキャンベラと隣接するクイーンビアン(NSW州内)に上水を提供しているようだ。

やや脱線するが、一応内訳を説明すると取水源はCotter川、Queanbeyan川、およびMurrumbidgee川である。1500m級の山々が連なるBrindabella山地に源を発し市の西側を北流するCotter川に2箇所取水堰があり、市の南東から北流しクイーンビアン市内を縦断しキャンベラ東部でMolonglo川へと合流するQueanbeyan川上流に巨大な貯水池(Googong Reservoir)とともに取水堰がある。また、これらとは別に市南方から西側へと北西流するMurrumbidgee川中流部からGoogong Reservoirへ導水する設備がある。これら3本の河川に対応した3つの取水域が山間部に設定されているようだ。

*ちなみに、Molonglo川というのは市の中心を東から西へ突っ切る川で、真ん中にキャンベラの設計者にちなんで命名された人造湖を作っている。人造湖の風景は最高だけど水質はよくない。

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市内を横断するMolonglo川(Burley-Griffin湖)

続いて資料ではHACCPに定められた7原則に則り、水質管理のアプローチを”Multiple-Barrier Approach ”と説明している。カナダやニュージーランドの水道局でも同様の表現を用いている。具体的には取水域の環境保全から、採取した水の凝析・ろ過・紫外線殺菌・塩素やフッ素の添加など、複数のステップを設けることで安全に飲用できる水質を保証しているようだ。日本の上水道でも似たようなアプローチが採られている。

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Multiple-Barrier Approachの実践例(資料:https://www.iconwater.com.au/~/media/files/icon-water/key-publications/icon-water_annual-drinking-water-quality-report_2017-2018_web_med.pdf?la=en&hash=8A512E29B42028EB5DF7967E943CF77DFF298968 より抜粋加工)*The image belongs to ©️Icon Water, Limited. Used for research purposes only.

これに続いて飲用水の安全性確保に重要な指標を「微生物学的」、「物理的」、「化学的」にカテゴライズし、実際の計測値を交えながら数ページに跨って各指標を説明している。ここでは、水質浄化プロセスの概要を浄水場ごとに絞ってさらに詳述している。

それでは急いで具体的な数値を見ていこう。

1. 日本の水質基準とオーストラリアの水質基準の比較

(公財)水道技術研究センターによる2017年11月発表のpdf(→参考4)を確認したところ、シアン化物イオン・ホウ素・トリハロメタン類・ジクロロ酢酸において日本と比べ2倍以上10倍未満の濃度基準を採用していたが、そのほかにおいては顕著な違いが見られなかった。ここでシアン化物イオンと聞けばギョッとするかもしれないが、同pdfで比較されているWHOの水質ガイドラインや、(独)製品評価技術基盤機構によるリスク評価書(→参考5)におけるヒト疫学データを用いた 吸入経路における無毒性量を鑑みても1日数リットルレベルの飲用によるシアン化物に関する健康影響はほとんどないだろう。

2. 実際の水道水の品質を比較

水質報告の本資料に戻る。給水域が4つのゾーンに分かれており、はじめに全域的な貯水槽での水質報告、ついで消費者の水道における水質報告やクレームの紹介を行い、最後に各給水ゾーンの水質評価結果が詳しく記載されている。

 

ついで、キャンベラの渇水問題についてもインターネットで調べてみた。

参考として、先日キャンベラおよびその周辺が属するMurray-Darling盆地地域における水権利について講演を聞いたのでその報告を別稿で行いたい。安全で生存に十分な水確保だけではなく、水の文化的な価値にも重きを置き、問題を伝える方法として芸術を紹介しており非常に興味深かった。

 

参考文献

(1)Farm Online 「Drought now officially our worst on record」(2019/08/27確認)

https://www.farmonline.com.au/story/6281386/drought-now-officially-our-worst-on-record/

(2)©️Icon Water Limited 「Annual Drinking Water Quality Report 2017-18」(2019/08/26確認) 

https://www.iconwater.com.au/~/media/files/icon-water/key-publications/icon-water_annual-drinking-water-quality-report_2017-2018_web_med.pdf?la=en&hash=8A512E29B42028EB5DF7967E943CF77DFF298968い

(3)クイーンズランド州政府「Codes of practice」 (2019/08/26確認) https://www.worksafe.qld.gov.au/laws-and-compliance/codes-of-practice

(4)(公財)水道技術研究センター 「日本と先進国の水質基準等一覧表」(2019/08/27確認)

http://www.jwrc-net.or.jp/chousa-kenkyuu/comparison/abroad04_03.pdf

(5)(独)製品評価技術基盤機構「化学物質の初期リスク評価書」(2019/08/27確認)

https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/pdf/CI_02_001/risk/pdf_hyoukasyo/108riskdoc.pdf

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